「大丈夫やと思うけど、もしなんかあったらウチに連絡してくれればええよ」
「うん、わかった」
「ほな、またな〜貴明、みっちゃんも頑張りぃ〜」
 ここ最近のうちにお馴染みになった、いつもの別れ道。
 いったい何を頑張るのやら、よくわからないエールを送りぐっと親指を立て去っていく珊瑚ちゃんと、俺に向かってべーっと舌を突き出して珊瑚ちゃんの後を追いかける瑠璃ちゃんの後姿を見送り、俺も一人家路へと着く。
「いてっ」
 ぽかんっと頭上のクマ吉が叩いてきた。
 本当に痛いわけではないのだが、思わずそういってしまったのは条件反射ってヤツだろう。
「悪い悪い、一人じゃなかったな」
 素直に謝ってやると、クマ吉も気が済んだのか、先ほど叩いてきた場所を軽く撫でてくる。
 ぬいぐるみに撫で回されるというのも貴重な経験だ。
 自分が今非常に珍しい状況に身を置いていることを実感する。
 ……あれ、何で今クマ吉のヤツは俺の考えたことが分かったんだ?
 もしかしてこいつ人の心を読む機能が付いてるとか。
「…………」
 はは……そんなばかな。
 ぐ、偶然だな、偶然。
 いやあ、それよりも腹減ったな。今日は夕飯はどうしよう。
 怖い考えを頭から追い払うため、強引に思考を切り替える。
 今最も優先すべきは空腹を満たすためいち早く家に帰ること。
 そう決めると、俺は足を速め帰途を急いだ。


 Target"K"


 誰もいない家へと帰り着き、暗い廊下を歩いてリビングへと入ると、手探りで電気のスイッチを入れる。
「ふぅ」
 学ランを脱ぎ捨て、ソファへと投げかける。
 そのソファを見れば、これまでもそうやって脱ぎ散らかしてきた衣服がそこに積まれていた。
 洗濯は日曜にまとめてしてしまうのだが、いっつも脱衣カゴに持っていこうと思うものの、ついつい後回しにしているうちにそのまま日曜日を迎えてしまうのだ。
 おかげで今や一週間の衣服がこうしてソファに累積されていってしまうのが日常となってしまっている。
 タマ姉やこのみに注意されるたびにこの悪癖を直そうとはするのだが、喉もと過ぎれば何とやら、2〜3日も経てばまたすぐ散らかしてしまうようになる。
「はは、これじゃあ親父たちがメイドロボを買うとか言い出すのもしょうがないかもな」
 お前はだらしないから、とそんなことを言い出した両親を思い出す。
 あの時は一人でもちゃんとやれるとか大口叩いただけに、今のこの状況はとても両親には見せられない。
「ん? 何だよクマ吉、どうしかしたのか?」
 それまで頭の上で大人しくしていたクマ吉が、突然俺の体を伝って床まで降りると、ダッとソファへ向かって駆けていく。
「お、おい、クマ吉……?」
 もしかして壊れてしまったのか?
 それはまずい、預かってからまだ30分と経っていないというのに。
 そんな不安に駆られながら、クマ吉の行動を恐る恐る観察していると、なにやらソファにかかっている衣服に絡まって遊び始めた。
 ソファの背にかけられている上着の一つの袖を懸命に引っ張っていたのだが、クマ吉では小さすぎるのか上着はびくともしない。
 何度も勢いよく引っ張り続けていると、その甲斐あって上着はずるっとソファから滑り落ちるが、すぐ真下にいたクマ吉はそれを被さってしまう。
 もぞもぞと服の中で動き続け、何とか頭だけ出すと服を被さったまま、ずるずるとリビングの外を目指して前進しようとする。
 …………って、これ遊んでるのと違うだろ!
「おい、大丈夫か。ったく、何がしたかったんだよお前は」
 クマ吉を抱え上げ、絡みついた服を剥ぎ取ってやる。
 するとクマ吉は俺の言葉に答えるかのように、今の今まで自分に絡み付いていた服を、続いてソファ・リビングのドアと順にその指のない手でびしっと指し示す。
「もしかしてお前、洗濯物を片付けようとしてくれたのか……?」
 いや、そんなバカな。
 すぐに自分の言葉を否定しようとするが、クマ吉は俺の言葉を肯定するようにこくこくと何度もうなづいていた。
「……マジかよ」
 まさかぬいぐるみ……いや、ロボットか、とにかくクマ吉にまでそんな気を回されるとは。
 なんだか俺、ものすごくダメなやつなんじゃないだろうか。
 そんな自分が恥ずかしくなって、こそこそとソファにかかっている洗濯物を集めて洗濯機へと突っ込んでくる。
 まあ、洗濯自体は結局日曜じゃないとできないけど、こうしとくだけでもいくらかマシだろう。
 心を入れ替え、少しはきちんとしようと心に誓う。
「でもどうせすぐにまた元通りになっちゃうんだろうけどな」
 自分のずぼらさを誰よりも正しく理解している俺だった。

 

「しまった」
 空腹だったことを思い出しそろそろ夕飯を食べようとしたところで、次いでもう一つ重要なことを思い出した。
 そういえば今日は帰りに弁当でも買って来ようと思っていたのに、すっかり忘れていた。
 瑠璃ちゃんにおかしな勝負を吹っかけられたり小牧の誤解を解いたりしてるうちに忘却の彼方へと飛んでいたらしい。
 時計を見る。
 まだ間に合わないこともないが……。
「これからまた出かけるのも億劫だし……」
 確かカップ麺の買い置きがまだあったはずだし、今日はそれで済ませてしまうか。
 そうと決めてしまえば行動は早かった。
 すぐにお湯を沸かすと、カップ麺に注いで3分待つ。
「いただきます」
 タマ姉の教育の賜物か、誰もいないというのにきちんと挨拶をしてしまった。
 いや、クマ吉がいたんだったな今日は。
 ずるずると麺をすすりながら、今は俺の膝の上に座っているクマ吉をちらりと見やる。
 すると、クマ吉は俺を見上げていたらしくばちっと視線が交わった。
 クマ吉のビー玉のような円らな瞳(比喩にあらず)が俺をじっと見つめてくる。
「お前も食いたいのか?」
 そんなわけないとわかりながらも一応尋ねてみると、案の定クマ吉はぶんぶんと大きく首を振る。
 良かった、これで頷かれてしまっていたらどうすればいいのか分からないところだった。
 自分から聞いておいたくせに、変なところで安心してしまう。
「ふぅ、でも確かに、メイドロボなりお手伝いさんなりがいれば、もうちょっと食生活も改善されるのかもなぁ」
 残った麺を一息ですすり、そんなことを呟く。
 別にカップ麺も店屋物も好きだけど、人の手が入った料理が食べられるのならそちらの方がやはりいい。
 こうして既存食に頼りっきりなのも、自分で作るよりもこっちの方が手っ取り早くて簡単だからだ。
 雄二のやつも、タマ姉が帰ってくるまではほとんど一人暮らしみたいなもんだったけど、家政婦さんがいるおかげで食事に関しては悲惨な話を聞いたことなかったしな。
「ん?」
 膝の上でとんとんとお腹のあたりを叩いてくるクマ吉が、自分自身をくいくいと指し示している。
 何かをアピールしているようにも見えるが……。
「なんだ、もしかしてお前がお手伝いさんになってくれるのか」
 こくこくこくこく。
 どうやら当たりらしい。珊瑚ちゃんにはまだ及ぶべくもないが、俺にも今日一日でだいぶクマ吉の言わんとすることが分かるようになってきたようだ。
「お前じゃ無理だって。そんなちっこいくせに。でもま、気持ちだけはありがたくもらっとくよ」
 感謝の印にあたまを軽く撫で回してやるが、クマ吉はその手を振り払うと、俺の膝から飛び降りて台所へと駆けていってしまう。
「っておい、またかよ!」
 先ほどに続いて、今度はいったい何をしでかすつもりなのかと後を追ってみると、ちょうどクマ吉が渾身の力をこめて冷蔵庫を開けたところだった。
 だがしかし、ヴンと低く唸り、冷気の漏れ出すその箱には、生憎ろくなものは入っていない。
 詳しく述べればもやしとキャベツ、常備してある麦茶とドリンク、あとはよく冷えた空気が入っているだけだ。
「なんだよ、やっぱりお前も何か食いたかったのか?」
 食べられないくせに食い意地は備えているとか?
 あのどこか常人とは違った感性の持ち主の珊瑚ちゃんの作ったロボットなら、そういうおかしなところがあっても不思議じゃないかもしれない。

 バンッ!

「く、クマ吉?」
 俺が言ったことが気に障ったのか、クマ吉は乱暴に冷蔵庫の扉を閉め、こちらをじっと睨みつけてくる。
 が、すぐに視線を外し、てくてくと戸棚の方へと歩いていくと、今度はそちらの扉を開け、そこにしまってあったカップ麺の買い置きから一つ、ひょいと取り出した。
 どうやら先ほど俺がカップ麺を取り出したところを見て、しまってある場所を覚えていたらしい。
 賢いロボットだ。
「……ってそうじゃなくて、クマ吉は食べられないんだろっ」
 抱えているカップ麺を取り上げようとするが、取られまてたまるかとばかりにクマ吉はより一層力を込めてカップ麺を抱きかかえる。
「ダメだってば、そんなの食べようとしたら壊れちゃうかもしれないぞ」
 クマ吉は珊瑚ちゃんの大切な友達なのだし、そんなこと絶対にさせられない。
 断固阻止すべく全力をもって引っぺがしにかかろうとしたところで、クマ吉は何かを伝えようとブンブンと首を振りだす。
「え……? 俺に作ろうとしてるのか?」
 クマ吉の手が何度も俺とカップ麺の間を行き来していたのでもしかしてと尋ねてみたが、本当にそうだったらしい。
「いや、でも俺今食ったばっかだしもういいよ」
 改めてカップ麺を取り上げようと手を伸ばすと、クマ吉は俊敏にその手を避け、俺の足元へと走りよると、俺の足を思い切り蹴飛ばしてくる。
「うわっ、ちょっとやめろっ」
 何度も何度も飛んでくる蹴りから、クマ吉が不平を訴えていることが窺える。
「はぁ、しょうがないな。わかったよ」
 もう一つくらいなら食べられないこともないだろう。
 諦めて、クマ吉のカップ麺をご馳走になることにする。
 ひょいとカップ麺を抱えたクマ吉を抱き上げ、調理台の上に乗せてやる。
「ほら、思う存分作ってくれよ」
 クマ吉は力強く頷くと、カップ麺の包みを破り、フタを剥がし、包丁を取ると…………っておい!
「まてまてまて、なんでカップ麺作るのに包丁使おうとするんだよ」
 包丁を抱えてふらふらと危なげな足取りのクマ吉に危険を感じ、慌てて止めに入る。
 クマ吉はと言うと、なぜ包丁を取り上げるの?と聞かんばかりに首を傾けている。
 いや、あのな、首を傾けたいのは俺のほうだよ。
「いいかクマ吉、カップラーメンなんてのはお湯を沸かして三分待てばいいだけなんだよ」
 どこの世界に包丁を必要とするカップ麺があるというのか。
 こんな突拍子もないことをしでかすあたり、クマ吉のヤツはきっと俺以上に料理というものを知らないに違いない。
 いや、でもロボットなんだしそれが当たり前なのか。
「ほら、お湯はそこのポットにあるのを使って」
 しかしクマ吉はイヤイヤと首を振ってそれを拒絶し、空っぽのヤカンをびしっと指差す。
「やかんでお湯沸かしたいのか? しょうがないな」
 これも恩返しと思って、今日はとことんクマ吉にわがままに付き合ってやろう。
 クマ吉に代わってヤカンに水を入れてやり、それをガスコンロへと置く。
 そうしてクマ吉を抱きかかえてコンロのスイッチのところまで持っていって火をつけさせてやる。
 待つことしばし、ヤカンから蒸気が出はじめ、お湯が沸いたことを告げる。
 先ほどと同じようにしてクマ吉に火を止めさせ、やっぱりヤカンを持てないクマ吉に代わってカップラーメンにお湯を注ぐ。
 その際、することがなくて拗ねないようにクマ吉にはカップ麺を固定しておく役目を与えておいた。
「それじゃ、いただきます」
 こうして、本日二杯目となるカップラーメンを食すことに。
 まあ、おいしいからいいんだけどさ。
 クマ吉も俺のためにとわざわざこんなことをしてくれたのだろうし、ここは素直に感謝しておこう。
「ありがとな、クマ吉。おいしいよ」
 そう言って頭をなでてやると、クマ吉は照れたように体をくねくねとうねらせた。
 仕草としてはかわいいんだろうが、ぬいぐるみがそういう動きをしていると少し怖かった。

 

「さって、それじゃあそろそろ風呂に入るかな」
 夕飯を食べ終えてすぐに風呂の準備をし、沸くまでの間食休みがてらテレビを眺めていたのだが、気付けばとっくに10時近い。
 少しテレビに集中しすぎてしまったようだ。
 膨れて苦しかった腹の調子も既にいつもどおりに戻っている。
「クマ吉、ちょっと風呂入ってくるから待っててくれな。テレビはこのままつけとくから」
 念のためにリモコンも渡しておけばクマ吉のことだ、つまらなければ自分でチャンネルを変えるくらいのことはするだろう。
 だが、頭の上から降ろそうとして抱き上げたクマ吉は、ぎゅっと俺の頭にしがみついて離れようとしない。
「こら、降りろってば。よっ……いてっ、いてててて、こらっ、髪の毛を掴むんじゃない!」
 絶対に降りないぞという意思表示なのか、無理やり引っ張ろうとすればクマ吉の掴んでいる俺の髪の毛まで引っ張る羽目になってしまう。
 これは一緒に風呂に行く気なのか。
 別にそれくらいのことは構わないんだけど、それよりもクマ吉は濡れても大丈夫なのかというのが気がかりだ。
 ぬいぐるみにせよロボットにせよ、水に濡れるのはあまりよくない気がするが。
 しかしクマ吉はやた高性能なロボットのようだし、耐水性もばっちりなのかも………。
 考えたところで、俺なんかにわかるはずもない。
「おまえ、濡れても大丈夫なのか?」
 わからないことならば直接聞けばいいだけだ。
 幸いにもクマ吉は意思疎通が可能な相手、質問すれば答えてくれるくらいの知恵は持ち合わせていることはこれまででわかっている。
 案の定、クマ吉はこくこくと頷き、俺の質問を肯定してくる。
 って、本当に防水加工もばっちりなのかこいつ。すげーな。
「それじゃ、一緒に風呂にいくか?」
 聞いてみると、こくこくこくこくこくと激しく、何度もクマ吉は頷いた。
 ご飯を作ろうとしたり風呂に入りたがったり、好奇心が旺盛なロボットだ。
 もしかしたら珊瑚ちゃんの言っていた『データを取る』というのは、こういうことも含めていたのだろうか。
 上着を脱ぐためにクマ吉を頭から降ろし、手早く脱いでいく。
「…………」
 ふと、ズボンをかけたところでクマ吉の視線が気になってしまう。
 見かけはぬいぐるみだし中身はロボットだが、妙に人間くさい動きをするクマ吉だ。
 素っ裸というのはちょっと気恥ずかしいかもしれない。
 いつもならそんなことはしないが、今日だけは腰にタオルを巻いて入浴することにした。
「クマ吉、お前は湯船に入っちゃったりしても平気なのか?」
 いくら濡れても大丈夫とはいえ、さすがにそこまで思い切り水に浸かってしまってもいいのかという不安はあった。
 思ったとおり、クマ吉も今度は躊躇いがちに首を振ってくる。
 聞いておいて良かった。
「それじゃあお前はここな」
 あまり水がかからない窓枠にクマ吉を座らせ、俺は蛇口に向かってすわり、体を洗う。
 一応、クマ吉のほうに水が飛ばないよう、シャワーを使うときには気を使う。
 一通り体を洗い終え、湯船に浸かる。
「ふぅ」
 思わず漏れた声と一緒に、今日一日の疲れが体の外に出て行くみたいだった。
 ……今日は特に疲れたからな。
 それよりも、明日からどうしよう。
 今日の一件で珊瑚ちゃんは三人でラブラブとか言い出してたし、瑠璃ちゃんはそのせいで今まで以上に俺を敵視してきそうだ。
「学校サボっちゃおうかなぁ」
 思わず弱音まで漏れてしまったが、いざ口に出してみるとそれも悪い考えではないような気がしてくる。
 女の子から逃げるためにずる休みというのはちょっと……いや、かなり……というかものすごくかっこわるいが……。
 しかし俺の精神的な疲弊を考えればそれくらい許されるのではないだろうか。
 いやでも男としてそれはどうなんだろう。
 相反する二つの思考が頭の中でぶつかり合う。
「……のぼせないうちにあがるか。クマ吉、いこう」
 一向に出そうにない答えに見切りをつけ、俺は湯船から上がり、あらかじめクマ吉の隣に用意しておいた乾いたタオルに包んでクマ吉が濡れないように抱きかかえて風呂場から出る。
 体を拭いていると、再びクマ吉の視線が気になる。
 ……さっきはそこまで考えなかったが、もしかしたらこいつ俺の裸を見てるんじゃ。
 そういえば、クマ吉って確か女の子だって珊瑚ちゃんも言ってたし。
「お前案外エッチなんだな」
 そっと指摘してやると、クマ吉は慌てて振り向き、とたとたと脱衣所の隅っこへと走っていってしまう。
 ……もしかして図星だったのか。
 脱衣所の隅っこでかがみこんでいるクマ吉を見て、ついつい笑いが漏れてしまった。

 

 明日のことは明日考えよう。
 そういうことにして、今日はもうさっさと寝てしまうことにする。
「ほら、部屋に行くぞ」
 先ほどからソファに座ってる俺の太ももに背を預け、いじけるように膝を抱えて座っているクマ吉に声をかける。
「さっきのことなら謝るからさ。それにほら、俺もクマ吉に見られても気にしてないし」
 女の子といっても結局はクマのロボット。
 例えば犬に顔を舐められたとき、それがオスだろうとメスだろうと気にしないのと同じだ。
 まったく気にならないということはないが、かといってそれほど気に留めることもしない。
 だが呼びかけてもクマ吉は顔をあげようとしない。
「ったく、そういうところはホントの女の子みたいだな」
 苦笑しながら、強引にクマ吉を抱き上げ、定位置の頭の上に乗せてやる。
 抵抗されるかと思ったが、予想に違ってクマ吉は暴れることもなく大人しくしている。
「機嫌、直ったか?」
 聞いてから少しだけ間を置いて、頭の上でクマ吉が小さく頷くのが分かった。
「そっか、良かった。それじゃあ寝るか」
 自室へと戻り、今日もお疲れ様と自分を労う。
 クマ吉は……、そうだな、机の上にでも座らせておけばいいかな。
 そう決めると頭の上に手を伸ばすが、クマ吉はまたイヤイヤと激しく首を振る。
 俺が身振り手振りだけでクマ吉の言わんとすることを読み取れるように、クマ吉もまた俺の行動から俺の意思を読み取れるらしい。
「なんだよ、机の上は嫌か?」
 こくり、と頷く感触。
 しょうがないな、それならベッドの枕元にでも。
「俺は別に寝相が悪い方じゃないと思うけど、一応潰されないように気をつけとけよ」
 枕の横に座らせてやり、軽く注意をしておく。
 クマ吉も承知したとばかりに頷き返す。
「それじゃおやすみ」
 ぽんぽんと頭を軽くなでてやり、布団を被って目を瞑る。
 やはり今日は疲れていたのか、意識がまどろみに落ちるのにさしたる時間はかからなかった。

 

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